はじめに
フォールデッドカスコードは見た目が美しく、オーディオアンプとしては清楚で綺麗な音がしそうな雰囲気がするので、個人的には割と好きな部類の回路になります。
実際の設計には色々気を使います。
注意点としては、
- オープンゲインが稼ぎづらいので、初段にはgmの大きい素子を持ってくる。ソース抵抗を入れず、電流もたくさん流す
- とにかく二段目の出力を高インピーダンスにする
- 全体的に高周波特性を気にする
こんな感じですね。これらの点についてシミュレーションで検討していこうと思います。
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シミュレーション
とりあえず、アバウトにパワーアンプを描いてみました。
アイドリング電流はこの定数で約1Aになります。他のパラメータは見た通り。ある意味、とても教科書的な回路です。
裸ゲイン特性を以下に示します。
絶望的に低い低域ゲインと、よくわからないけどのたうつ高域の位相。
二段目右側のA1015の出力インピーダンスがどう考えても低いので、カスコード化します。また、C1815のカレントミラーは高周波特性が悪いので、2N7002のウィルソン型カレントミラーに置き換えます。ついでに電源周りをいじり、終段FETにゲート抵抗を入れ忘れていたので追加します。
人前に出しても恥ずかしくない特性になりました。低域ゲイン約80dB、GB積2MHzで、ゲインが0dBになる点での位相回転は-96度です。
低域ゲインは80dBあれば、オーディオ用パワーアンプとしては十分だと思います。とはいえ、fc(-3dB)は160Hzくらいで、いわゆる「オペアンプ」としてはゲインの低い部類のアンプです。もう少しゲインを欲張りたい場合、初段にgmの大きいFETを持ってきて電流をたくさん流すか、二段目を更に改良するという力技くらいしか選択肢がありません。
このアンプの第一ポールは、二段目の出力インピーダンスと終段の入力容量*1が形成します。位相余裕が無駄に大きいので、終段にドライブ段を追加し、なくなった終段の入力容量の代わりに別途数十~数百pF程度を対アース間に挿入することで、もう少し設計を詰めることも可能です。ただし、ドライブ段で生じる位相回転が付け加わるため、ユニティゲイン安定の条件を維持するのであれば、GB積は5MHzくらいまでしか上げられないと思います。ユニティゲイン安定を捨てればもう少し上げられます。
大抵のアナログパワーアンプに言えることですが、電源利用効率を重視するなら、4電源構成は必須です。幸い、電圧増幅段は大した電流は食わないので、倍電圧整流などで作れば十分だと思います。
ここのページの「(4)別電圧を取り出す整流回路」などが使えそうです。
実際に製作するとしたら、今なら初段は2SK2145で良いでしょう。問題は終段で、入手性がよくちょうど良い規格のMOS-FETは少ないです。
- 2SK1056/2SJ160
- 2SK2220/2SJ351
- 2SK3163/2SJ555
あたりが選択肢ですかね。お金持ちの人は2SK135とかを買ってきて突っ込むのもオツでしょう。
また、ドライブ段を追加する場合、これまた入手性の良い小信号用コンプリMOS-FETがありません。ここにバイポーラは使いたくないので(ベース電流が流れるから)、MOSを探したいところです。チップ部品でよければ、BSS138とBSS84というコンプリペアがあります(思いっきりデジタル用途向けですが)。
他のパーツは適当に揃うもので良いと思います。
*1:厳密には帰還容量+Vgs駆動電圧に対応するだけの容量。入力容量がそのまま効いてくる訳ではなく、実際にはほとんど帰還容量で決まる