はじめに
二段差動+カレントミラー合成はとてもポピュラーな回路です。
日本の自作オーディオ界隈では金田式GOAで採用されたことや*1、LH0032の回路がこれであるということで有名です。
が、この回路に関しては長年いろいろな疑問を抱いていました。なので、シミュレーションで確認してみることにしました。
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シミュレーション
シミュレーション回路を下の図に示します。
この回路図をひと目見てわかることは、二段目が仰々しいくらい重装備なことです。上のカスコード、下のウィルソン型カレントミラーで、がっちり固めてあります。
どうしてこういう構成にするかというと、ゲインを稼ぐためです。そもそもこの回路は初段が抵抗負荷であり、初段では40dB以下のゲインしか稼げません。そのため、100dB以上のゲインを狙うオペアンプに近い設計を目指すなら、二段目でゲインの大半を稼ぐ必要があります。しかし、そのためには二段目の出力側をハイインピーダンスに保つ必要があります。
トランジスタのコレクタの低域インピーダンスは意外と低く(数10~100kΩ程度?)、カスコードなし、通常のカレントミラーだとトータルゲインが100dBにも届かない現象が発生しました。その対策を施したら、上の回路図のようになったということです。
ということで、オープンループゲイン特性を下図に示します。
それでも120dBに届かない、ということに留意してください。実用上十分といえば十分ですが、初段を能動負荷にすればあと20dBは軽く上乗せできる訳です。
さて、私がこの回路に抱いてきた疑問は、「左右の対称性どうなってるの」ということです。
二段目の位相補償コンデンサは、とりあえず左右に同じ値を付けています。しかし、片方はカレントミラーの入力側という低インピーダンスのノード、片方は超ハイインピーダンスの出力ノードですから、当然左右でゲインが異なり、同じミラー効果は働かないであろうことが容易に想像できます。
ということで、位相補償コンデンサに流れる電流を見ます。
低域では顕著な差がありますが、高域に行くにつれて左側の電流が増える形で近づいていきます。これはカレントミラー入力側のインピーダンスが超高域では出力側と同程度になっているといった現象を示唆します(色々な容量が入ってくるのでしょう)。
そのせいで左側コンデンサの電流はやや複雑なカーブになっていますが、少なくとも超高域ではあまり心配することはなさそうです。
二段目出力ノードの上下の電流を観測します。
意外にも差は少なく、ユニティゲイン周波数以下では心配になるような挙動はありません。可聴域での誤差も0.5dB~1dB程度であり、大きな問題にはならないであろう範囲です(ただし完全な対称合成にならないことは意識すべき)。
冷静に考えてみれば、これは差動アンプですから、基本的には正負入力間の電位差で出力が決まり、流れる電流は定電流に縛られて左右でシーソーしています。なので、それほど深刻に考える必要はないのかもしれません。
なら大丈夫だろう、と調子に乗って左側の位相補償を外してみます。この構成の作例もたまに見かけます。
すると、高周波領域で明らかに怪しい位相回転とピークが発生しました。
トータルゲインはこのように変化します。
正体はよくわかりませんが、そもそも高周波領域ではこの左側Cには右側Cと同程度の電流が流れていた訳で、外してしまうと問題が起きることはなんとなく理解できます。
なお、このCの値を倍とか半分にして見てもみましたが、結果はほとんど変わらなかったです。容量についてはあまりシビアに考える必用はなさそうです*2。
まとめ
いまいちよくわからなかった二段差動+カレントミラー構成のアンプですが、少なくとも普通に作る分にはそれほどクリティカルに考える必要はないということがわかりました。
注意点は2つで、
- ゲインを稼ぎたければ二段目は重厚な構成にする
- 位相補償は左右に同程度の値を入れる
さえ守ればだいたいなんとかなりそうです。
実際世の中のアンプはそれで動いている、と言われればそれまでですが、シミュレーションを行うことでちゃんと動作することを実感できました。