オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



LTSpice上の2N3055の直線性

 LTSpiceにデフォルトで入っている2N3055のモデルの直線性をDC Sweepで見てみます。なお、面倒くさいのでコレクタ電圧は固定。

シミュレーション回路
シミュレーション回路

結果
結果

 こうして見るといろいろなことが示唆されます。

 VBE-IC特性の直線性が良いのは1.5A近辺なので、電圧ドライブならこのあたりで使えば有利なことになります(現実問題としてそんなに流せるか?)。一方、hfeの直線性が良いのは0.36Vあたりまでで、電流は100mAにも達していません。電流ドライブならこちらを重視して、少ない電流で使ったほうが良いということになります。

 しょせんシミュレーションモデルなので具体的な数値はあてになりませんが、バイポーラトランジスタはどの品種でもこういう傾向を持ちます。

 上に書いた電圧ドライブと電流ドライブとは何ぞや? というと、具体的には駆動元インピーダンスとベースのインピーダンスの関係性の問題になります。たとえば、負荷8Ωを出力したエミフォロならベースのインピーダンスは8*hfeΩで、約800Ωくらいになります。800Ωより十分小さい出力インピーダンスの回路で駆動すれば電圧ドライブ、800Ωより十分大きい出力インピーダンスの回路で駆動すれば電流ドライブということになります。

 このロジックを推し進めると、二段ダーリントンなら入力インピーダンスは80kΩくらいになります。よくあるワイドラー二段目(エミッタ接地・位相補償付き・定電流負荷)みたいなのの出力インピーダンスがどれくらいか? というとけっこう微妙な問題があり、一概に言えません。条件によって電圧ドライブだったり電流ドライブだったりすると思います。

 なので、どのみち理想的な条件に最適化するのは無理であり、有り体に言えば負帰還が大きいので問題にならない、ということになります。
 (なお、上記理由から私は出力段の歪み打ち消しに関して少なからず懐疑的です。入出力電圧の関係性を線形にできたところで、入出力電流の関係が線形でなければインピーダンスに歪みが生じるだけだからです。逆も同じ)

 ちなみにMOS-FETにはこの問題はありませんが、今度は寄生容量の非線形性が出てきます。それでも可聴域ではぜんぜんマシなんですけどね(1nF、10kHzでインピーダンスの絶対値は16kΩくらいのはず)。