はじめに
前回の記事では基本的なアース配線の考え方について説明しました。
そこで、今回はもう少し実践的な例として、電源を共有するステレオアンプのアース配線について書こうと思います。ステレオアンプのアース配線は妥協が必要、という話もよく聞きますが、この記事を読むとそれがどういうことなのかよくわかると思います。
ステレオアンプのアース配線
さて、このようなアンプを考えます。基本的な内容については前回の記事で書いたので、詳細については触れません。前回の記事を参照してください。
次のようにアース配線したとします。ぱっと見は悪くなさそうです。が、問題があります。
実は、これは前段の機器を含めた巨大なアースループを形成します。この通りやると、たいていハムが出ます。
どうすれば対策になるでしょう? とりあえず入力ピンジャックのアースは入力に近いところ(というか入力端子)でまとめるのが鉄則になります。ここを引っ張ると巨大なアースループができてろくなことがありません。とりあえずそれでやってみましょう。
ついでにアッテネーターとスピーカーの配線もまとめてしまいましたが、こうなります。
残ったアース記号はどうするかって? Vrefに一点アースするしかないでしょう。
なんだかまがまがしくなりましたが、これが一番妥協の少ない方式です。適切な配線の長さでこの通りに組めれば大きな問題は出ないでしょう。
じゃあ妥協の多い方式はどんなのかって? こんなのです。
左右でアースをまとめてみてそれぞれを参照電位につなぎ、入力ピンジャックのアースはしょうがないので直接参照電位に落としてみた……という配線例です。要するに、左右独立基板で作って、それぞれでアースをまとめるとこうなると思ってください。
この方式だと、アッテネーターと帰還回路とスピーカーのリターンが共通インピーダンスを形成します。スピーカーのリターンは他と比べて3桁くらい多くの電流が流れるので、それだけでも大騒ぎです。何桁も違う電流を同じアースに流すのですから・・・
そして、参照電位までは銅線で引っ張りますから、銅の抵抗でここに思いっきりスピーカー電流に起因する電位差が生じます。それがアッテネーター側では正帰還、帰還回路側では負帰還されます。俗に言う電流正帰還と電流帰還ですね。
なんだか愉快なことになりそうです。確実に言えるのは、出力インピーダンスの絶対値が大きくなるということです(まあ正帰還と負帰還でちょうど良く打ち消しあったら影響が消えるかもしれないが・・・)。無視できるかというと微妙で、はっきり聴こえるほどひどいことにはならないけどカタログスペックには出てくるし耳のいい人は聴き分けられる……という程度の影響が生じると思います。ちゃんと検討はしていません。そのうちやります。
ではパワーアンプを左右独立基板で作りたい場合に究極一点アース方式でやるとどうなるかというと、基板に電力を消費する回路用のアース(スピーカーなど)と小信号用のアース(NFBなど)を分けて生やし、それぞれを参照電位まで引っ張ることになります。NFBのアースをずっと引っ張るのも気持ち悪いというか、おっかないですね。配線距離が短く済めば良いですけど。何十センチも引っ張るのは問題になりそうです。
ということで、意外と妥協する方法のほうが問題が少ないケースもあるので、注意が必要です。個人的には、左右を同じ基板で作るなら究極一点アース方式を目指しますし、左右独立基板ならたぶん妥協する方を選びます。あとはせいぜい、入力アッテネーターを他の基板に追い出して(これは議論の余地なく左右でまとめるべき)、前段機器から流れてきた電流の信号ループをさっさと完結させるようにすると良いでしょう。
なんだか書いていて気が滅入ってきましたが、まだ続きます。
ステレオアンプで、大元の電源は一つだけど左右に分けて、それぞれレギュレータやデカップリングを入れてチャンネルセパレーションを改善してみる……というシチュエーションがたまによくあるでしょう。実はそんな工夫をしなくて済む回路を考えた方が良い結果を生むことが多いのですが*1、何はともあれやってしまった場合の話です。
こうすると実はあまり選択肢がなく、ほぼ自動的にこんな感じになると思います。
入力は共通の参照電位に落とすしかありませんね。いまいちな感じもしますが、まあこれで良しとしましょう。
他にもいろいろあると思いますが、さすがに面倒なのでパスします。
まとめ
ステレオアンプの場合は、入力のアースを一箇所にまとめざるを得ないのと、大元のアースが1つしかないという制約のために妥協した配線を強いられます。なかなか大変ということです。
*1:あとこれは余談ですが、左右で分けるよりは電圧増幅段と出力段とで分けた方がはるかに理にかなっています。ここを分離できていれば、左右は共通電源でもあまり困らないと思います。